グラス洗いを拒否る

きのうの夕食の時にそれは起きた。

弟は、日本酒やビールをついで飲むグラスを吟味して買ってくる。

高さ12センチほどの、半透明のグラスで緑と青の丸い模様がついた美しいも
のである。

が、これを買ってきてからというもの私は、ふつうではありえないほどの気配り

をして洗ってきた。

だいたいの値段もわかっていたし、弟がとても気に入っていたからだ。

食洗機に入れて割れたら大変だからと、必ずスポンジで一番に洗い、すぐに拭き

食器戸棚にしまったり、食事の時もランチョンマットの上では安定が悪いかも

しれないからと、テーブルの真ん中に置いたりしてすごく気を遣ってきた。

ところが、夕食の時ほんの3ミリ程度かけているのを発見した弟は激怒。

その日、私は疲れていたので早々に夕食をすませ自室で横になっていたため、

知らないでいた。

食事が終わったようだったので、下に行くとなにやら母がうんざりした顔で
いる。

聞けばそんなことがあったそうだ。

「えぇ！！？」

だいたい、食器などいつかは割れるものじゃないか。それなのに洗い方が悪い

とかなんとか、食事をしながら母に散々文句を言ったそうだ。

本当は私に言いたかったのだろうが、不満を全部母にぶちまけたようだ。

このグラスにどれだけ気を遣ってきたか母も知っているから、それを弟に

伝えたらしいが、通じなかったらしい。

お酒を飲んでいるからしつこく言ったのだろうが、限度ってものがあるだろう。

「だから、私はこのグラスを毎回洗うのがいやだったんだ。食洗機には入れら

れないし、他のコップとぶつからないようにていねいに扱ってきたのに。

忙しかったり、きょうみたいに疲れているときでも、慎重に扱うのがどれだけ

面倒だったか。

だいたいあのグラス、何年使ってきた？

父が病気になる前からあったから、少なくとも6年はたっている。

はいはい、わかりました。私は、もう次に買ってきたものはいっさい手を

触れません。洗わないからね。自分で洗ってもらいましょう。

そして、桐の箱にでも入れて自分の部屋に置いておけば。

割れるのがいやなら、部屋にでも飾っておけばいいじゃん。

夜、遅くになって「いや、さっき言ったけどそれほど気を遣わなくてもいいよ」

と母に言いにきたらしいが・・・。

もう、弟のグラスは洗わないしさわらない。

叔父は骨董の趣味があるが、叔母もやっぱり「大事なものは自分で洗うように

させたの。私が洗うと文句ばっかりだから」と言っていたのを思い出した。

そうだよ、それがいい。