みなさんはどうしますか？

きのうのことである。

山手線外回りの3人掛けのドア側に座っていた私は、目を閉じていた。

するとどのへんだったか、「10円、恵んで。恵んでくださいよ。

福祉だよ福祉」というしゃがれた声で目を開けた。

男が立っていた。

私の顔のすぐ隣の女性のあごのあたりに、ダンボールが突きつけ

られている。ギョッとなった。

それにはさっき男が言ったことと同じ文句が書かれていた。

「10円、めぐんでください」

怖くて、どんな人なのか顔を見上げるなどできはしない。

黒のキルティング素材のロングコートは、無数に破れズボンも汚れて
いた。

私はとっさに目をつぶった。

「10円、恵んでよ」

目を閉じながら、隣の女性がどうするのかと耳をそばだてていた。

こういう場合、男の言いなりになって10円を出せばいいのか、それ
ですむのか。

10円出したら、「もっとよこせ」と脅されるのか。

それとも無視した方がいいのか。無視をしたら、「なんで無視するん

だ」と怒り出すのか。

あれこれと、いろいろな考えが恐怖と一緒に頭を駆け巡った。

隣の女性がバッグをあけた音もしない。男はどうしたのか。

次は私に、そのダンボールを突きつけてお金を要求するのか。

駅に着いて人が乗り降りする音がしたので、目をあけてみた。

男はいなかった。

どこへ行ったのか。

隣の車両に移って行ったのか、それとも駅で降りたのか。

男もある程度はわかっていてやっているようで、しつこくお金を要求

すれば「恐喝」になってつかまるでしょう。

「恵んでくれ」というわりには、男の体は大柄で決してやせてはいな
かった。

よっぽど隣の女性に、「怖かったですね」と声をかけようかと思ったが、やめた。

新宿で降りる時、彼女の顔を見たら目を閉じていた。

さて、こういう場合お金を出した方がいいのか、それとも無視すべき
なのか。

みなさんは、どうするのでしょう。