表情の豊かな女の子

2007年2月20日
金曜日、山手線に乗っていたとき隣に座っていた女の子に

「あのぅ、すみません。ちょっと教えていただきたいのですが」

と声を掛けられた。

「はい」

「表参道に行きたいんですが・・・」

リクルートスーツを身につけた女の子だった。

「表参道でしたら、原宿から歩けばすぐですよ」

「あ〜、やっぱり原宿ですか」

「ええ、明治神宮口から出て左に行けば、表参道ですよ」

「そうですか。ありがとうございました」

彼女は礼を述べたが、なんとなくよくわかってないようだった。

手元を見ると、「表参道B2出口、東京メトロ」と書いたメモを
持っている。

「表参道のB2出口なら、やっぱり地下鉄に乗らなきゃわからない
ですよね」

「はい、初めてなんです。東京メトロというのに乗ればいいんですか?」

「東京メトロっていうのは、地下鉄の事だから・・・。一番わかり

やすいのは、渋谷で降りて地下鉄に乗れば1個めが表参道駅なん

だけど、え〜と・・・」

なに線だっけ?確か、3線くらい出てたよなぁ。

私はいつも地下鉄の路線図を持って出かけているのに、きょうに

限って持ってこなかった。

彼女は、しきりに時計を気にしている。

会社訪問なのだろうか。

探しながら行くようでは、時間が足りないのかもしれない。

「え〜と思い出せないんだけど・・。あぁ、そうだ。今、渋谷駅の

ホームに入ったら、ここの改札って教えてあげられると思うから、

待っててね」

「はい」表情が明るくなった。

やがて、山手線は渋谷駅のホームに入っていく。

ふたりで、窓越しにホームを見る。

「あっ、ここここ!玉川口だわ!そうそう、銀座線だわ。赤い矢印で

銀座線って書いてあるの見えた?あの階段をのぼると、すぐ電車来る
から」

「はい!わかりました!!」笑顔である。

「地下鉄だけど、少しだけ地上を走っていくから。お気をつけて」

「はい。よかったぁ。ほんと助かりました〜。ありがとうございました」

彼女は喜び、丁寧に礼を述べ、人ごみにまぎれて電車を降りて行った。

こんなに自分の気持を表情豊かに言う人を久しぶりに見た気がした。

それは、ちょっとした感動であった。

        ********

近頃、表情の豊かな人って少なくなったような気がする。

彼女は、他人の私に素直な気持ちを表情に出して見せた。

何かを聞いても表情ひとつ変えないで言う人もいるが、私は感情

表現の豊かな人ほど、かわいいと思うし親しみがわく。

「初めてなんです」と答えた彼女は、地下鉄が初めてなのか東京が

初めてなのかさだかではないが、まゆをひそめた顔は不安げで
あった。

場所の説明をしている方は、わかっているからペラペラと言うが、

その話からおぼろげながらイメージを作っていく側は、不確かなもの

ゆえにあまりピンとこないものである。

彼女はそれを表情と声のトーンに表せて見せたので、もっとわかり

やすく教えてあげなきゃという気持ちになったのだ。

「助かりました〜」と言った時の、顔の輝きは20代の美しさでも
あった。

私は午前中、歯科でおじいさんに順番を譲ってもらったが、その時

述べたお礼とお詫びのことばに、ふさわしい表情をしていただろうか。

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