父のインフォームドコンセントの後半、「きょうは特別に話しておき

たいことがあります」と言う医者のことばで、やっとゆるみかけて

いた緊張がまた戻ってきた。

「今までと違った抗癌剤を少量内服にて使いますが、さまざまな

副作用の他に、突然死があるということも知っておいてください。

それは、癌患者ばかりではなく一般の健康だった人でもあることなの
ですが。

ガン細胞が、予想もできずに飛ぶことがあります。それが心臓の血管

であったり、脳であったりする場合があるのです。幸い○○さんは、

骨にも、その他の内臓にも転移は見られませんが、そういうことも

あると言うことを覚悟しておいてください」と言う。

人にもよるが父のような癌の場合、抗癌剤を使っても生きられる期間

は、平均で約20ヶ月だそうだ。

それなのに、父は4年も生きている。しかも、寝たきりになることも

なく生きている患者はめずらしいそうだ。

        *****

インフォームドコンセントに出るたびに、私は涙が出そうになる。

今回もそうで、そんな涙なんか流していられないと思い、グッと

奥歯をかみしめてこらえた。

なんでだろう、父への愛情なんてこれっぽちもなかったのに・・・。

父は私の事を嫌っていて、憎しみすら抱いていることを私は日頃の

言動から知っていたのに。

情になんて、流されたくない。

あぁ、寿命なのね、はい、さようなら。なんて出来たらどんなに
楽か。

緊張の1時間だったが、終わり間際に「先生、そのレントゲンの袋に

書いてある年齢が5歳上に書いてあります。直しておいてください」
と父が言った。

「あ〜、ほんとだ。これは違いすぎる」

医者が言って、私たちは笑った。

        *****

夜になって、やっぱり少し泣いた。

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