すずかけの木

2004年9月7日
面会時間の2時過ぎに病院に着いた。

きょうは、台風の影響で晴れているのに、時々激しい雨が降る。

風も強い。

父はベッドの脇に椅子を置いて、友人が持ってきたという写真を見ながら、水車小屋の風景画を描いていた。

とても元気だった。

きのうのラジオ波は、今までになく痛みも少なく早く済んだという。

最初、「今回は、非常に難しい」と言われたそうだ。

前回までは、直接肝臓に針を刺したが、今回は肺に近い場所なので、肝臓にまず水を入れ、肝臓を重くして肺から少し離れた状態にもって行き、患部にラジオ波を当てたそうだ。

下手をすれば、肺を傷つけることになると聞かされていたようで、覚悟をして臨んだという。

そんな事は、聞いていなかったが母は知っていたそうだ。

無事に終わってよかった。

          **********

父の部屋から、すずかけの木が見えた。

いつの間にか、また雨が降っている。

強い風に大木があおられて、鈴のような茶色い実が前後に揺れて
いた。

「あれ、すずかけの木だろう?」

「うん、プラタナスとも言うよね」

「あの実、食べられないんだろう?」

私は笑った。

食いしん坊だから、そう言ったのか、それとも聞いたことがないから
興味を持ったのか、私は父の横顔を見ながら笑った。

「うちの近所のあの通りにもあるけど、実がなってなかったはず
だがなぁ」

確かに、実はついてなかった。

「うん。実がつくって事は、花が咲くんでしょうね。でも、何色の花が咲くか知らないなぁ」

こんな穏やかで他愛ない話ができることを、私は父が病気になってから経験した。

父と娘の間には、子供の頃から理由のない溝があった。

          **********
にわか雨がやんだ。

百日紅(さるすべり)の横に停めた自転車を、持ってきたタオルで拭いてから乗った。

私は思う。

病院に行けば父に会える、それだけで幸せなことなんじゃないかと。

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